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数列の極限とはさみうちの原理

史織  数列 $\{a_n\},\ \{b_n\},\ \{c_n\}$

\begin{displaymath}
a_n<b_n<c_n\ (n=1,\ 2,\ 3,\ \cdots)
\end{displaymath}

をみたしている.

\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty} a_n=\lim_{n \to \infty} c_n=\alpha\quad \cdots\maru{1}
\end{displaymath}

なら

\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty} b_n=\alpha \quad \cdots\maru{2}
\end{displaymath}

となる.これが「はさみうちの原理」ですが,この証明を次のように考えていました.

$a_n<b_n<c_n$より

\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty} a_n\le \lim_{n \to \infty} b_n \le \lim_{n \to \infty} c_n
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴\quad \alpha\le \lim_{n \to \infty} b_n \le \alpha
\end{displaymath}

つまり

\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty} b_n=\alpha
\end{displaymath}

でも,「はさみうちの原理」というにしては簡単すぎるし,これで証明になっているのでしょうか.

南海  ともすればこのように考えやすいが,これは「はさみうちの原理」の証明としては不完全だ.

一般に,極限の入った等号$\maru{2}$は何を意味しているのかといえば

左辺の極限が存在し,その値が右辺に等しい.

ということだ.

史織  すると,私の証明では,数列$\{b_n\}$が収束すること,極限の存在の証明が抜けているのですね.

でもそれはどのようにして示せばよいのですか.

南海  そういうときは「定義にかえれ」だ.数列$\{a_n\}$が値$\alpha$に収束するとはどういうことか.

史織  「$n$が大きくなれば$a_n$の値が$\alpha$に近づく」ということです.

南海  「近づく」というのはどういうことか.

史織  「数直線上の距離が小さくなる」,ですか?

南海  そうだ.つまり$\vert a_n-\alpha\vert$がいくらでも小さくなるということが, 数列$\{a_n\}$が値$\alpha$に収束するということの定義だ.

史織  でも,「いくらでも小さくなる」が「0に収束する」ということなら, 「収束」を定義するのに「収束」を用いたことにはなりませんか.

南海  うーん.それは鋭い質問だ.「いくらでも小さくなる」といったあいまいな言葉を使わずに 収束することを定義しなければならない. いろんな人もこのようなことを考えた.そこで考え出されたのが次のような定義だ. これは「実数の連続性と代数学の基本定理」で同じことが言われているのだが,改めて 数列「収束」を定義しよう.


数列$\{a_n\}$と数$\alpha$がある. 任意の正の実数$\epsilon$に対して,番号$N$
        $N<n$であるすべての$n$について $\vert a_n-\alpha\vert<\epsilon$
となるものが存在するとき, $\displaystyle \lim_{n \to \infty}a_n$が 存在し,極限値が$\alpha$であると定める.

「任意の正の実数$\epsilon$に対して,番号$N$で…となるものが存在」というところは 「どのような小さい」正の実数$\epsilon$が指定されても,それに対して,「つねに」番号$N$が存在する, ということなのだ.そのような副詞を省いて論理の骨子で言うと先のようになるのだ.

この定義がわかりにくいときは例で考える.数列$\{a_n\}$ $a_n=1+\dfrac{1}{n}$とする. これはもちろん1に収束する.$\epsilon$ $\dfrac{1}{100}$にして,ある番号$N$より大きい番号では

\begin{displaymath}
\vert a_n-\alpha\vert<\dfrac{1}{100}
\end{displaymath}

にせよ,といわれれば,

史織  (少し考え)$N=100$ですね.そうか, $\dfrac{1}{10000}$より小さくしたければ$N=10000$だ, どんなに小さい$\epsilon$でも,つねに番号$N$は存在しますね.

では, $a_n=n\sin\dfrac{1}{n}$も1に収束しますが,

\begin{displaymath}
\vert n\sin\dfrac{1}{n}-\alpha\vert<\dfrac{1}{100}
\end{displaymath}

となると,どうなるのでしょう.

南海  いろいろ考えるな.一般には具体的に$N$を求めるのは簡単でない.

史織  実際に$N$を求めるということではなく,$N$が存在するということで,「収束」を定義するのですね.

この「収束」の定義って「いくらでも」とか「近づく」とかのよくわからない言葉が入っていませんね.

南海  そうなのだ.

その代わりに「任意の」という論理の言葉が入る.これがいわゆる $\epsilon-\delta$論法というもので, 大学初年に習う解析の最初の関門だが,このように考えれば自然な発想であることがわかる.

史織  今は$\delta$ではなく$N$でしたが.

南海  $\epsilon-\delta$論法は次のように $\displaystyle \lim_{x \to a}f(x)=\alpha$ を定義する.


関数$f(x)$と数$\alpha$がある. 任意の正の実数$\epsilon$に対して,正の実数$\delta$
        $\vert x-a\vert<\delta$である$x$について $\vert f(x)-\alpha\vert<\epsilon$
となるものが存在するとき,極限 $\displaystyle \lim_{x \to a}f(x)$が存在し 極限値が$\alpha$であると定める.

史織  これもわかります.

南海  いずれにせよ,このような厳密な定義があるということを知ったうえで, 数列$\{a_n\}$が数$\alpha$に収束するとは, $n$が大きくなるとき,絶対値$\vert a_n-\alpha\vert$がいくらでも小さくなることと理解すればよい.

この定義のもとではさみうちの原理を証明しよう.

条件$\maru{1}$のもとで,$\vert b_n-\alpha\vert$がいくらでも小さくなることを示せばよい.

\begin{eqnarray*}
\vert b_n-\alpha\vert&=&\vert b_n-a_n+a_n-\alpha\vert\\
&\le&...
..._n-a_n+\vert a_n-\alpha\vert\\
&<&c_n-a_n+\vert a_n-\alpha\vert
\end{eqnarray*}


\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty}\{c_n-a_n+\vert a_n-\alpha\vert\}=\alpha-\alpha+\vert\alpha-\alpha\vert=0
\end{displaymath}

なので$n$が大きくなると$\vert b_n-\alpha\vert$がいくらでも小さくなる.

よって数列$\{b_n\}$$\alpha$に収束する.つまり

\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty} b_n=\alpha
\end{displaymath}

史織  三角不等式ですか.

南海  そう.そこで注意を一つ.

\begin{displaymath}
0<\vert a_n-1\vert<\dfrac{1}{2^n}
\end{displaymath}

などで, 「 $\displaystyle \lim_{n \to \infty}\dfrac{1}{2^n}=0$なのではさみうちの原理によって $\displaystyle \lim_{n \to \infty}\vert a_n-1\vert=0$」と書く人がいるが, これは収束の定義そのものでさみうちの原理によるのではない.

はさみうちの原理は $\{a_n\},\ \{c_n\}$のいずれもが定数でないときに両方が同じ値に収束すれば, $\{b_n\}$も収束してその極限値が$\alpha$であることを示すものである.これはしっかりと押さえておきたい.

南海  せっかく収束を厳密に考えたのだから,次のことも示しておこう.

2つの数列 $\{a_n\},\ \{b_n\}$がすべての$n$$b_n<a_n$を満たし,各々が収束すれば

\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty}b \le \lim_{n \to \infty}a_n
\end{displaymath}

史織  それぞれの極限を $\alpha,\ \beta$とする.$\alpha<\beta$であると仮定する. $\dfrac{\beta-\alpha}{2}$より小さい$\epsilon$をとる.$N$が存在して$N<n$に対して $\vert\alpha-a_n\vert<\epsilon$ $\vert\beta-b_n\vert<\epsilon$となる.

このとき図のように$a_n<b_n$なので,条件と矛盾した.

南海  これでよい.


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